嘘と愛






「気の済むまで頑張ると良いよ。・・・死ぬまでね。」




自ら言った言葉なのに。

放たれた相手よりも、自分自身に重く圧し掛かっていた。

らしくないね・・・。


丸みをおびた子供らしい面を、真っ青に染めて。額に浮かぶ油汗を、たどたどしい手つきで 拭い払う。

君は、後何日生きられると思う?

返されたのは、鋭い一瞥。それでも、瞳に浮かぶ迷いは、日に日に大きくなっていた。

馬鹿だね。君が死んでも、彼は何も感たりはしないよ。
隣にいる人間すら目に入らないのに、本当に世界の事なんて考えられると思う?

紫水晶の様な瞳が揺らだ。

『そんなこと、ない。信じているもの。』

愚かしいね。

只、盲目に信じ続けても、待っているのは滅びだと言うのに。

『先生は、考えようとしているわ・・・幸せに、向かおうとしているわ。今は、まちがっているのかもしれない。  だけど・・・ただしいことをしようと向かっているなら・・・きっと辿りつけるはずだもの。』

『何度間違っても・・・わたしは・・・信じてる。』

そう・・・じゃあ、好きにしなよ。

本当に、死んでしまえば良い。そうして、踵を返して。二度と、会わないと誓う。 死ねば良い。
どうせ、君一人が死んでも、何も変わらない。
もしかしたら、あの魔道師でも、少しは悲しむかもしれないね。

それはそれで、好都合だ。



あぁ・・・それなのに、




神殿の裏庭。木漏れ日が差し込む木の下で、死んだ様に眠る少女。
見つけてしまっては、無視できなかった。
浅く吐息を繰り返すだけのその体は、数日前よりもずっとか細く見えて。起こさぬ様に 隣にそっと腰を下ろす。

君は、後何日生きられるだろうね?

そっと額に触れて、温度を確かめる。
汗ばんだ其処は、手袋を通して解る程に熱かった。

馬鹿だね。
君は、もっと賢い子だと思ってたのに、残念。
先生とは、結局他人だから・・・
そう言っていたのは、君じゃないか。


『んっ・・・・・しりうす・・・・?』

小さく身を捩って、見開かれた瞳に、見慣れた輝きは無かった。 何時もは、姿を見るや否や可愛らしい眉を顰めて毒舌を飛ばすのに。 体を起こすだけで、息が乱れる。

君は、後何日生きられるだろうね?

『・・・・・わたしは・・・・しなないわ。』

本気でそう言ってるの?

冷ややかに言い放っても、反論の一つも返ってこない。

どうして、こんなにも弱っているのに・・・・・


頑張るのか。
気付かないのか。

どうして、彼の為に其処までするんだい?
君は、命を捧げなければならない程、彼に恩があるのかい?


それとも、君を動かしているのは、他の何かなのかな?


朧気な瞳が、少しだけ見開かれる。

例えば、愛とか・・・・・。

『あなたの言う愛がなんなのか・・・わたしには、わからないわ。』

『でも・・・今、わたしがやめても、きっと先生はまちがいには気付かない。  それは・・・だめだから。』

君がいたって、気付かないと思うけど?むしろ、君に甘えっぱなしじゃないか。

『きっと・・・気付くわ・・・あなたには・・・とどかない・・・かもしれないけれど・・・・ せんせいも・・・苦しんでる・・・から・・・・』

がくりと、刹那小さな体が崩れ落ちる。腕で受け止めると、荒い息遣いが聞こえた。

離してと、抵抗もない。そうする力すら残っていない。

一番、苦しいのは、君なのにね。

私には関係の無い事だけど・・・・・。


君は、後何日生きられるだろうね?


そう訊ねると同時に、己に問う。
膨らむばかりの憎しみと憤り。
憎めば、憎む程。殺す理由も多くなる。
それは、好都合だと、自分に言い聞かせても・・・・


苦しみは、消えてはくれない。


『・・・っ・・・いたい。シリウス。』

・・・ああ、ごめんごめん。

力を入れすぎていた腕を慌てて緩める。

『はんざいしゃ・・・』

怒っても、振り上げる手には力がない。だから、やんわりと腕を掴んで不意打ちよろしく頬に 口付けた。

『〜〜〜〜っ・・・・灼熱の炎は此処にあり・・・』

うわぁっ!待ちなさい。そんな体で呪文を唱えたら、本当に死にますよ?それとも、今度は 口を塞がれたいですか?

『へんたい・・・。いんらんじょうれいに・・・・訴えてやるわ。』

この美しい私に、法律なんて関係ありまっせーん。

睨み上げて来る瞳に、安心して笑う。

安心・・・・?



もし、君の瞳に、二度と映る事が無くなったなら・・・・・。



『ねぇ、アクア殿。もし、私が、君を愛しているから、止めてほしいって言ったらどうする?』

笑ってそう言えば、信じない事を知っていた。

『・・・・・・・ろりこん。って言うわ。』

案の定予想していた答えが返ってくる。
真実と偽りの確率は、半分ずつ。
本当の事しか言わない訳じゃない。
嘘だけを口にしている訳でもない。

それが、一番上手な嘘の吐き方。


そして、そう仕向けたのは、自分自身。


だけど、愚かにも、何処かで期待していたのか・・・・



『でも・・・・あなたは・・・わたしに、そんなことはいわない。」



苦しげに、途切れ途切れ息を吐き出しながら、真っ直ぐに見詰めて来た瞳は、 先ほどとは桁違いの光を放っていて。

何故と、問い掛ける事に、畏怖した。

『・・・さあね・・・つかれたわ・・・ねるの。じゃましないで。』

言うない名や再びころんと寝そべる少女。声を掛ける暇もなく聞こえてきた寝息に、思わず溜息が出た。

無防備だねぇ・・・・。

それでも、本当に疲れているのだろう。風邪をひかない様にそっと抱き上げて思う。

憎い。歯がゆい。もどかしい。

言えない理由を。




君は、後何日生きられるだろうね?



その前に、




殺すよ。彼を。








END.......




シリウス様名言:「謀略と血の匂いと嘘と愛」(笑)
個人的萌えリミットブレイクした台詞です。
訳の解らない創作でごめんなさい。(平謝)